2024年08月01日

【終了しました】【インタビュー田原町12】金井真紀さんにきく

※オンライン配信はございません。

昨春から始めた、ノンフィクションの書き手に話をきく「インタビュー田原町」も12回目。今回のゲストは、スタッズ・ターケル著『仕事!』がバイブルという、イラストレーターでもある文筆家の金井真紀さんです。

イランに女子相撲の選手たちがいると聞いて、ええっ!? いてもたってもいられなくなり、取材旅行を思い立ち、イランに留学経験のある編集者を口説いて出来たのが最新刊の『テヘランのすてきな女』だそう。
首都テヘランの安宿を起点(現地通訳が予約した高級ホテルを2日で離脱)に、肌や髪を隠すことを義務づけられた社会で生きる女性たちにインタビューし、ひとりひとりの「語り」の中から異社会の現実を浮かびあがらせる。と、ともに、遠い国(たぶん、読者のわたしは一生行くことはないだろう)と思い込んできたけれど、そういえば女性監督のサスペンスタッチのイラン映画を観たなあ、とか。この年配女性、うちの母ちゃんと似ているわ、とか。いつしか身近に引き寄せられていた。

金井さんといえば、『フムフム』のひと。
40代になっての単行本デビューが『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』(晧星社→ちくま文庫)。見開き、おおよそ600~1000字。「スーツアクター」やら、「セロハンテープメーカーの技術者」やら。聞き書きされたモノローグ×ナレーション(登場人物は無記名)で、百種類ちかい職業の人たちをスケッチしている。
たとえば、無機質なセロテープの構造を説明しようと「要するに……」と話しかけ、彼は口ごもる。その無言の「間」に、金井さんはドキドキする。
ジャンルは異なるが、ひとり芝居のイッセー尾形を想わせる。
はじめて手にしたときは、スケッチ的に描写する稀な書き手なのだと思ったが、その後、イラストを描き出すきっかけを説明する『酒場學校の日々』(晧星社→ちくま文庫)を読むと、長い文章(もう会えない人たちや店のことを綴った)に味があるひとだとわかった。

2017年発行の『パリのすてきなおじさん』(柏書房)は、『テヘランのすてきな女』と対をなすルポルタージュ作品で、担当編集者が同じだということ、本来オモテに登場することの少ない案内人・通訳が重要な(ときに主人公的にもなる)役割をなしている。
じつはタイトルから、イランかぁ……。縁なそうだなぁ……と、あまり気乗りがしなかった。ザフラ―さん(テヘラン大学日本語学科卒で先生をしている女性)と、メフディーさん(日本で働いたこともある洒落た50代の男性)、ふたりの通訳と金井さんの会話がイラン社会を知る上でも面白くなり、男性ゆえにメフディーさんが立ち会えないときには残念だなあと思うようになる。

イランでは、女性は髪をスカーフで隠すことが義務づけられていて、従わないと逮捕される。金井さんが訪れる前年の2022年には、警察に連行された女学生が死亡する事件が発生、これに抗議する大きなデモが起きていた。わたしもそのことはニュースで知ってはいたけれど、テヘランで生活する女性たちのインタビューを読むと、へぇー、そうなんだ。圧制とこれに抵抗する一色に染まったイメージとは、異なる多様な景色が見えてくる。
金井さんが訪れたときにはデモは目にしなくなっていた。が、全員スカーフをきちんと巻いているのかというと、じつはそうでもない。こっそりと工夫し、厳格なルールから外れる着用をしている女性が多いことに驚かされる。たくましいというか。レベルは異なるが、学校時代に制服や頭髪の自由化論争があったのを想い浮かべたりした。

驚いたといえばインタビュー3人目、女性弁護士のスィーマーさんを訪ねた日のこと。近年増えている女性からの依頼はレイプ被害で、加害者と被害者に面識があることが大半だという。しかも、加害者が父親という場合が被害者を悩ませる。
告訴し、有罪となった場合、父親は処刑されるからだ。イスラム法では、レイプは死刑と定められている。つまり、罰したいものの死刑まで求めるのか、と躊躇してしまう。
このあたりから俄然、読書スイッチが入った。
「反スカーフデモ」に参加した女性たちをサポートするスィーマーさんのもとには、秘密警察から電話がかかってくる。けれども、「べつに怖くないです」と言う。
「あなたの覚悟の……根っこにあるものはなんですか?」
金井さんが口ごもりながら訊ね、スィーマーさんが答え、という場面で、以前観たイランの女性監督の映画を思いだした。
そうかと思えば、女性は肌を見せてはいけない国なのに、豊胸手術が流行っているらしい。その話を詳しく聞くのは、美容整形会社で働くアーレズさんを訪ねた日のことだ。

「子どものころ『キャプテン翼』が大好きだった。毎週見てたよ」
と話すのは、イラン女子サッカーリーグ黎明期に選手として活躍したアァザムさん。いまは17歳以下の代表チーム監督にして社会学者でもある。しかし、イラン国内では女子の試合は男子禁制のため、父親は応援に来られなかったとか。選手は試合中も長袖長パン、頭を覆うスカーフが外れることがあってはいけないのだという。
まあ、いろんな体験、人がいるものだ。ひとくくりなんてできない。当然だけど。
でも、わたしがいちばん惹かれたのは、男性通訳のメフディーさんだ。90年代に日本に出稼ぎに行ったことがあり、テレビと歌で日本語を覚えたという。当時よく聴いていたのは金井さんかの描くメフディーさんの風貌から、え?? 長渕剛だと聞き、「な……」と金井さんが言葉に詰まる場面がおもしろい。
と、読みすすむうち、遥か彼方に思えたイランがちょっとずつ近くに感じるようになった。金井さんのルポの妙だ。

インタビュー田原町では、そんな金井さんに、本に書ききれなかったテヘランでのこと、そもそも人物スケッチ画とインタビューを組み合わせる取材現場の様子などを、過去の本もテキストにしながら聞いていこうと考えています。
会場定員は25人くらいの小さな学級規模。ぜひ、ご参加ください。



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 概 要

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日 時:2024年8月11日(日)18:30開場/19:00開演

会 場:Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2-4-7/東京メトロ銀座線「田原町」徒歩2分)

参加費:
〇会場参加券(通常)/1500円
〇リピーター参加券(インタビュー田原町に会場参加したことがあるひと)/1200円
〇応援してやるぞ!!(カンパ込み)参加券/2000円

ご参加をご希望の方は【インタビュー田原町12】金井真紀さんにきく | Peatixよりお願いします。

※オンライン配信はございません。

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 登壇者プロフィール

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話し手

金井真紀(かない・まき)

1974年千葉県生まれ。テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て、2015年より文筆家・イラストレーター。
著書に『バリのすてきなおじさん』(柏書房、『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』(ちくま文庫)、『聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』(カンゼン)、『日本に住んでいる世界のひと』(大和書房)、虫嫌いにもかかわらず虫の研究をしている人たちに会いにいく『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)、『世界のおすもうさん』(和田静香と共著・岩波書店)、『戦争とバスタオル』(安田浩一と共著、亜紀書房)ほか多数。
「多様性をおもしろがる」を任務とする、難民・移民フェス実行委員。

聞き手

朝山実(あさやま・じつ)

1956年兵庫県生まれ。書店員などを経て1991年からフリーランスのライター&編集者。
人物ルポを中心に今年5月に休刊した「週刊朝日」で30年間「週刊図書館」の著者インタビューに携わってきた。著書に『父の戒名をつけてみました』『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店)、『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP)など。
編集本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著・中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著・晶文社)などがある。

2024.08.01. | Posted in news