2024年09月05日

【終了しました】【インタビュー田原町13】『潜入取材、全手法』を書かれたばかりの横田増生さん

※オンライン配信はございません。

ノンフィクションの書き手に「取材して書くこと」について訊いてきた「インタビュー田原町」の13人めのゲストは、『潜入取材、全手法』(角川新書、9/10発売予定)を書かれたばかりの横田増生さん。
ユニクロ、amazon、ヤマト運輸などの企業から米国大統領選トランプ支持の選挙ボランティアまで、さまざまな現場に潜入し調査報道を行ってきた「潜入ルポ」の第一人者に、潜入する理由と戦略をききます。

《ふざけるな、と思った。
 取材は、街頭アンケートやキャッチセールスとは全然違う。私は名刺を渡してジャーナリストと名乗ったうえで、相手の名前や年齢を聞いてから取材しているのだ。おまけに、取材相手の写真も撮っている。そう反論した。》

横田増生著『潜入取材、全手法』(角川新書)、第五章「いかに身を守るか」p.186からの引用だ。
横田さんが何を立腹しているのかというと、『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋、2011年刊)と週刊文春に書いた、ユニクロの店長らの「サービス残業」や中国の生産工場の「過酷な労働実態」についての記述が名誉棄損にあたると、2億2千万円の賠償金を求める民事訴訟を起こされた裁判をめぐってのこと(原告はユニクロ、被告は文藝春秋。横田氏自身は、訴えられてはいない)。

本書では、2011年6月から3年以上にわたるこの裁判の詳しい経緯が綴られている。
冒頭にあげたのは、証人調べに立った横田氏が、ユニクロ側の弁護士に問われ、下請け工場の女性工員から20分ほど雨降る中、工場の周辺で話を聞いた様子を話したあとのこと。ユニクロ側の弁護士が、それは街頭アンケートやキャッチセールスみたいなものですかと聞き返されたのだという。

横田氏の怒りの度合いはともかく、冒頭のわずか3行に重要なことが具体的に記されている。
のちにさらにユニクロを仰天させる『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋、2017年)とは異なり、『光と影』では「潜入」取材は行ってはおらず、工場の敷地外で、横田は自身の名刺を渡し、身分をあかしたうえで取材を行っている。
その際、女性工員たちが横田の名刺を手に話をしている写真まで撮影したという。それを知ったうえで、あなたの取材は「キャッチセールスみたいなものですか」もないだろうが。

では、掲載もしない写真をなぜ撮ったのか。
読むほどに大笑いしてしまう、法廷での弁護士と証人のやりとりを明かすのは著者にしても初めてだろう。
新書という、横田にしてはハンディな著作だが、本来「潜入ルポ」のオモテに出てこない、調べられることは調べ尽くす「裏取り」を含め、横田がどれほど入念な仕事を重ねてきたのが見えてくる。

サブタイトルには「調査、記録、ファクトチェック、執筆に訴訟対策まで」とある。
さらに帯では、「誰でも使える、誰でも書ける。」と、潜入取材からブラック企業対策の実践ノウハウ本であることが強調されている。
が、いわゆる安直なハウツー本などではない。ジャーナリストたる横田増生というひとりの「人間」、仕事バカぶりが見えてくる仕立てだ。

たとえば、第一章の「いかに潜入するのか」では、潜入ルポに大事なことは何かと自問し、二つをあげている。
一つは、現場では一生懸命に働く。〈たとえ書くためにはじめた仕事であっても、一生懸命にやっているとおのずと見えてくるものがある。たとえ時給1000円でも、額に汗して働いていると、仕事のこの部分を改善したほうがいいというところまでわかってくるものだ(後略)〉。
なるほど。『ユニクロ潜入一年』を再読すると、ついつい潜入であることを忘れるほどによく働き、周囲から頼りとされる「働き人」横田増生が登場する。

もう一つは、ウソをつかない。
この仕事をはじめる際にペンネームにしておけばよかったと後悔を綴っている。
記事にした際のことを考え、応募の履歴書に偽名を使わない。でも本名だと、著作から身元がバレてしまう。では、どうするのか……。とった手段に、へぇーと驚かれる人もすくなくないだろう。

実践書らしく、いかにして密かにメモをとっていたのか。メモ帳はどんなのがいいのか。録音は? 実際に用いたメガネ方の隠しカメラの使い方なども紹介している。
※当日は横田さんに、使ったカメラやメモ帳なども持参していただきます。

また、横田さんのいまにいたる足跡も書かれていて、よくデビュー作にすべて詰まっているといわれるが、紹介されている最初の単行本『アメリカ「対日感情」紀行』(情報センター出版局、2003年)を読むと、まさにそのとおり。
二年近くかけアメリカ全50州をまず現地で運転免許を取得することからはじめ、クルマを走らせ、不眠と腰痛に悩まされながら、日本と関りがある(あった)にあてはまる(大半が初対面)の人たちに「日本」について訊ねて回る。
ロードムービー的な赴きすら漂い、取材の長期さ(根気)とエピソードの多様さに呆れはてるルポだ。絶版らしくどこか文庫にしてくれないか。

さらに「潜入」とは異なるジャンルの、死後10年を経て横田自身は一度も会ったことのないナンシー関のことを、彼女が消しゴムを買っていた文具屋もふくめ多様な人たちに聞いていく『評伝 ナンシー関』(朝日新聞出版、2012年刊→朝日文庫→中央公論文庫)を書いたときの工夫も書いている。時間が許せば、これらの本のこともきいてみたい。



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 概 要

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日 時:2024年9月15日(日)18:30開場/19:00開演(終了後サイン会あり)

会 場:Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2-4-7/東京メトロ銀座線「田原町」徒歩2分)

参加費:
〇会場参加券(通常)/1500円
〇リピーター参加券(インタビュー田原町に会場参加したことがあるひと)/1200円
〇応援してやるぞ!!(カンパ込み)参加券/2000円

ご参加をご希望の方は【インタビュー田原町13】『潜入取材、全手法』を書かれたばかりの横田増生さん | Peatixよりお願いします。


※オンライン配信はございません。

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 登壇者プロフィール

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話し手

横田増生(よこた・ますお)さん

1965年福岡県生まれ。米国・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号取得。物流業界紙『輸送経済』編集長を経て99年よりフリーランスとして活躍。
2020年『潜入ルポamazon帝国』(小学館)で第19回新潮ドキュメント賞、22年『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』(小学館)で第9回山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞。
『仁義なき宅配 ヤマトvs 佐川vs日本郵便vsアマゾン』(小学館)、『ユニクロ帝国の光と影』『ユニクロ潜入一年』(以上、文春文庫)、『評伝 ナンシー関 ━━「心に一人のナンシーを」』(中公文庫)など。

聞き手

朝山実(あさやま・じつ)

1956年兵庫県生まれ。書店員などを経てフリーランスのライター&編集者。著書に『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店)、『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP)など。
編集本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著・中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著・晶文社)などがある。

2024.09.05. | Posted in news