2024年10月02日

インタビュー田原町14 キッチンミノルさんに聞く

ノンフィクションの書き手に「取材して書くこと」についてきく「インタビュー田原町」の14人めのゲストは、写真家のキッチンミノルさんです。

この春、テキサスブックセラーズという、ひとり出版社をたちあげたばかり。第1冊は、空港の端にある巨大な格納庫で、次のフライトまでに飛行機を点検する「航空整備士」たちの仕事をとらえた写真絵本『ひこうきがとぶまえに』。
“TEXAS Book Sellersしごと絵本シリーズ”の1冊で、今後いろんな仕事の本を出されるみたい。

(テキサスブックセラーズ
https://texasbooksellers.jp/)

本文もタイトルもひらがなの文章で、ちいさな子供と大人とで読める本を意図しているのだろう。もちろん大人が読んでも楽しめる。

でっかい飛行機を点検、修理するのに使う工具、ギーガーのエイリアンを見るようなジェットエンジンの内部。「ぶひん てんすうは やく3まんてん」を使う様子をつぶさに写している。

キッチンさんは写真家だ。新たに出版社の社主という肩書きもある。
今回「番外編」でなく「ノンフィクションの書き手」14人めのゲストとしたのは、キッチンさんがまとめた「巻末特別付録」の取材ノートを見て決めた。

あわただしい現場で、編集者もライターも同行せずキッチンさんひとり。どのタイミングでカメラを構え、手順の詳しいことなどをたずね、どこを面白いと思い、何をメモしたのか。



「(前略)特に窓は、上空できれいな景色を楽しんでほしいという航空整備士の思いから、安全に問題がなくても傷のあるものは交換しています。」
という一文から、丁寧に聞き取りをしていることが伝わってくる。
まず文章が簡潔でむだがない。
小さい文字の付録ではふつうに漢字が使われていることから、子供と読んで会話してほしいという主旨なのか。

写真家の領分をこえた丁寧な仕事ぶりに、今回は「ひとり出版社」をつくるまでの経緯と始めてみての現況なども合わせ、写真家キッチンミノルにとって「取材」するということについてきこうと考えています。

キッチンさん、じつはちょっと履歴が変わっている。
下記のプロフィールを見てもらうと???が何か所か含まれています。

まず写真家になる前、落語家になろうとした。「挫折」とわざわざプロフィールに書いている。
のちに春風亭一之輔さんに密着し一年間の落語の生活を目にした写真本をつくりあげている。
これは異端児だから撮れた写真がたくさん。長年寄席取材を重ねてきた者には出来ない。「新参者」ならばこその、エッ?!ここで撮るのか(業界の非常識)。なんとも憎めないキャラが幸いしているようですが。

そもそもキッチンミノルの名前をわたし(聞き手でライターのアサヤマ)が見覚えするのは、AERAの巻末頁(2008年~2015年)の「はたらく夫婦カンケイ」の連載でした。

当時はまだカタカナ名前はまだ珍しくもあり、キッチン? 
夫婦のポートレイトとインタビューを1頁の誌面に収めたもの。企画としては特段目新しくはない。
ヘンなのは、ふたりがそれぞれ別々の方向を見ている。
なんで?
こういう写真は正面を向くようになっているのに。かれらの目線の先に、いったい何があるのだろうか。
押し入れの中に子供たちと入り込んでいる夫婦、というか一家。面白い。けど、ふざけている?
よくよく見れば撮影場所の選択や構図がなんともヘン。
毎度毎度マネキンのように被写体に表情がないのも何でだろう。

目にした当初は、イキっていそうで嫌だなこのカメラマン、というのが偽らざる印象でした。
なのに、どうしてもAERAを手にするといちばんに巻末を開いてしまう。
一度だけ、その「夫婦カンケイ」の現場に立ち会ったことがありました。現場を見たい、キッチンミノルを見てみたいと知り合い夫婦を編集者に紹介したからですが。

そのときのキッチンさんは記者がインタビューしている間、すこし離れた位置からやりとりを静かに見ている。大御所の写真家だと、アシスタントを何人も引き連れ、居合わせるだけでオーラ(存在感)のようなものを発してしまうものですが、ぜんぜんそういうのもなく、ニコニコと静かに耳を傾けている。
さて撮影になると、すでにロケハンをしていたらしく、ここで、このように座ってみてくださいという。

夫婦ふたりの距離と、それぞれにどの方向を見てくださいとだけお願いする。
被写体の二人が劇団の演出家とプロデューサーということもあり、はじめは茶々を入れていたものの意図を掴んだからか、指図されるままに「これでいい?」人形のように身体を固定させるので、へぇーと驚いたものでした。ひとの言うことをすんなり受け入れるなんて、とうてい想像できない二人だっただけに。

出来上がった写真は、吉永小百合と浜田光夫の青春映画(明るい未来を見るっぽい)のポスター写真のようで、なるほどなあ。
以来、キッチンミノルを見るわたしの目も変わりました。
その後別の機会にキッチンミノルの作品を見ると、オーソドックスな写真もまた達者であることを理解しました。ピカソがちゃんとした絵を描けるように。
あの表情を殺したマネキン写真は考えこまれたシリーズで、よくあるタレントのカッコイイきめカットにシャッターを押さない写真家だということも。とにかく、ひょうきんなとんがり具合が面白い。

これはわたしの持論ですが、いいカメラマンはいい文章が書ける。ライターには書けない文章が。周囲が見落としているものをさりげなく見ているのが写真家。だけど、撮るのが仕事と思っているからすすんでは書こうとしないんですね。

最近の「仕事」をテーマにしたキッチンミノルの仕事ぶりを見ていると、しっかり話をきいてみたくなりました。

 インタビュー田原町14
キッチンミノルさんにきく

 ■日時 2024年10月12㈯ 18:30開場/19:00開演~20:50(終了後サイン会あり)
■会場 Readin’Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2丁目4−7 地下鉄銀座線「田原」駅下車3分)

access – Readin’ Writin’ BOOKSTOREreadinwritin.net

※会場参加(25席)のみ、オンライン配信はありません。
■チケットは以下からご選択ください。
〇一般参加券  1500円
〇リピーター参加券(インタビュー田原町に会場参加したことがあるひと)  1200円
〇応援してやるぞ!!(カンパ込み)参加券   2000円

お申し込みは、下記宛てメールにてお願いいたします。

readinwritin@gmail.com

     ご記入事項は4点
▪️件名  (キッチンミノルの回)
▪️チケットの種類(例、一般参加)
▪️お名前
▪️緊急時の電話番号

※ご記載いただいた個人情報は当該イベント管理以外には使用いたしません。
参加料金は当日、会場レジスタンスにてお申し込み名をお伝えの上、直接お支払いください。
大変お手数をおかけしますが、当日受付が混雑しないよう、現金でお支払いの方はなるべくお釣りが必要ないようにご協力いただけましたらありがたいです。

◼️10/2~12/13、
インタビュー田原町に先行し、キッチンミノル『ひこうきがとぶまえに』写真展もReadin’Writin’BOOKSTORE
(http://readinwritin.net/category/news/)
にて開催します。無料です。

▪️ゲスト
キッチンミノル
1979年アメリカ合衆国テキサス州生まれ。18歳のときに噺家を目指すも挫折。法政大学でカメラ部に入部。不動産販売会社の営業マンを経て、写真家・杵島隆に写真を褒められたのを機に写真を勉強。人物や料理を中心に写真を撮り始める。
『メオトバンドラ』(詩=桑原滝弥 ニューフォイル)、『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』(文=春風亭一之輔 小学館)、『たいせつなたまご』『たいせつなぎゅうにゅう』(以上、白泉社)、『あさがおとはるくん』(PHP研究所)など。

▪️聞き手(企画)
朝山実(あさやま・じつ)
1956年兵庫県生まれ。書店員などを経てフリーランスのライター&編集者。
著書に『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店)、『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP)など。編集本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著・中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著・晶文社)などがある。

2024.10.02. | Posted in news