【インタビュー田原町17】野口理恵さんにきく

※オンライン配信はございません。
ノンフィクションの書き手に「取材すること、書くこと」についてきく「インタビュー田原町」17人めのゲストは、『生きる力が湧いていくる』を書かれた野口理恵さんです。
「インタビュー田原町17」のゲストは、『生きる力が湧いてくる』(百万年書房)を出された、文芸誌「USO」編集長でもある野口理恵さんです。
野口さんは15歳のときに母親を、その後に父と兄を思わぬかたちでなくされた体験を文章にされています。「私」視点の、雨音の聴こえそうな静謐な文体です(もちろん一色でなく、笑いを誘う話も詰まっています)。
面白いなぁと思ったのは、持ちきれない思いを北尾修一さん(野口さんが以前働いていた出版社の先輩で、現在は百万年書房代表)に吐き出した際、「それホラーだよ」「最高に面白いな」と笑って受け止められ、盛大に泣き、すこし身軽になったという。
そこで浮かんだのは、白夜書房におられた末井昭さんでした。上京して出来た唯一の友人に、幼い頃に母親がダイナマイト心中したことをボソボソっと話したところ、「すごいよ」と感動?され、ポジティブなほうに目線が変わったという。シンコクな体験を前にすると誰しもハレモノにさわるように身構えてしまうものだから、末井さんの自伝本を読んだときのやりとりを面白いなぁと思ったのでした。
『生きる力が湧いてくる』は、「私」の視点の話が中心で、重たいんだけれど、不思議と笑ってしまったりする。でもって油断してわかったフリをしそうになると、ネコパンチのような言葉が飛んでくる。
この本が独特なのは、同じ一冊の中に、「私」が書く話(ノンフィクション)と、「私」を見るひとたちの視点からの物語(フィクション)が並列的に混在していることです。
両親の死後、実家でひきこもり生活をつづけていた兄や、昔の職場の同僚や、親戚の叔母さん、疎遠になったきりの知人、友人たち。小説の世界ではわりとある形式だけど、さっきの「私」の体験だけど、語られていた他者である「私」の視点ではこう見えていて、こんなふうに思っていたんだと返す叙述の細部にゾクッとしました。
とくに、兄(ぼく)の視点で書かれた「uso かわいいあの子」の一編です。
妹がかけてきた、離婚するかもしれないという電話を切ったあと、「そうか、あの子には、もう会えないのか」。4歳になる甥(妹の子)のことを考える。短い描写がとてもいい。
そして、39年間の人生で彼が目にしたであろう場面でおえている。
野口さんのことは本で初めて知りましたし、もちろんお兄さんのことは知らないけれど、物静かな笑みを浮かべる39歳の彼が思い浮かびました。
これまで「インタビュー田原町」にゲストで来ていただいたノンフィクションの書き手のひとたちの多くに共通していたのは、「私」を主語としつつ、被写体のことを事細かに綴りながらも、私の人生については書かない。
例外はスタート回の『芝浦屠場千夜一夜』の山脇史子さんと、『死なれちゃったあとで』の前田隆弘さんですが。お二人とも、亡くなられたひとのことを書き残そうとした際に、時間を共にした「私」について書くことは避けられず、「私」について断片的に書きはじめたということでした。
これまで「インタビュー田原町」では、書き手の「私」の扱いについて聞いてきました。何度か参観していただいているひとには「ああ、またやっているわ」でしょうが。
野口さんの、他者の視点で「私」とのことを語る文章(フィクション)に接していると、ノンフィクションとフィクションの境目って何だろうと考えだし、なんだかいろいろ聞いてみたくなりました。と、また訳の分かんないことを言っていますが、ふつうのに『生きる力が湧いてくる』が出来るまでについても聞いていきます。

あと、そもそも野口さんのことを知ったのは、病院帰りに立ち寄った三軒茶屋の本屋さんで『私が私らしく死ぬために』(rn press)を目にして。副題の「エッセイと実用 自分のお葬式ハンドブック」が気になりました。というのも、わたしの父親が亡くなったときに島田裕巳さんの本に触発され「戒名」を自作しトラブって以来、「弔い」の場面の出てくる映画や本につい引き寄せられてきました。
『私が私らしく死ぬために』はハンディでストイックな装丁で、葬儀のガイドブックだけど、家族を見送った「私」の濃い体験が挟まれた読み物になっています。たとえば、父の納骨の日に親戚一同が集まり、十代の兄妹に対して「君たちは使わないよね?」とロレックスなどの金品を持ち去っていく場面。あまりのことに何も言えずにいた、腹立ち。既成のガイドブックにはないリアルを感じました。
一方で、「墓じまい」のお値段や「安楽死」のことなども整理して説明されていて、どんな人が書いているんだろう、と興味を抱いていたところに目にしたのが『生きる力が湧いてくる』でした。
なので、当日は『私が私らしく死ぬために』の話も聞こうと考えています。いつものように客席からの質問時間も設けます。
ああ、そうそう。
“亡くなってからお礼を言うのもおかしな話だ。でも、人生なんてたぶんそんなものだ。”
で、終わるエッセイがあります。故郷と「居場所」にかかわる話ですが、何でもない、いい話です。
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概 要
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日 時:2024年6月7日(土)18:30開場/19:00開演(質問タイムあります)
会 場:Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2-4-7/東京メトロ銀座線「田原町」徒歩2分)
参加費:
〇会場参加券(通常)/1500円
〇リピーター参加券(インタビュー田原町に会場参加したことがあるひと)/1200円
〇応援してやるぞ!!(カンパ込み)参加券/2000円
ご参加をご希望の方はhttps://peatix.com/event/4403814/viewよりお願いします。
※オンライン配信はございません。
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登壇者プロフィール
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ゲスト
野口理恵(のぐち·りえ)さん
1981年埼玉県熊谷市生まれ。文芸誌「USO」編集長。いくつかの出版社を経て、出版社「rn press」を設立。書籍の編集制作する傍らで、ライター活動も行う。著書に『エッセイと実用・自分のお葬式ガイドブック 私が私らしく死ぬために』(rn press)。趣味「墓」調べ。終活ライフケアプランナーの資格をもつ。健康体。
聞き手
朝山実(あさやま・じつ)
1956年兵庫県生まれ。書店員などを経てフリーランスのライター&編集者。著書に『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店)、『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP)など。
編集本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著・中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著・晶文社)など。ほぼほぼ余生。