【インタビュー田原町 18】『野馬追で会いましょう 相馬の馬文化と震災後の日常』を書いた星野博美さんにきく

※オンライン配信はございません。
ノンフィクションの書き手に「取材して書くこと」についてきいてきた「インタビュー田原町」、18回のゲストは『野馬追で会いましょう』(集英社新書)を書かれた星野博美さん。
〈私は選択を迫られた。一人の人間が二つの場所に同時に存在することはできないため、どちらの郷を見学するか、選ばなければなくなったのだ。〉(『野馬追で会いましょう』より)
「相馬野馬追(そうまのまおい)」を知っていますか?
背に旗差しした甲冑姿(相当の重量)での「甲冑競馬」や、騎馬武者が街を練り歩く、三日にわたる福島県の相馬に伝わる祭事です。ノンフィクション作家で『馬の帝国』の著書もある星野さんは、2021年夏に野馬追を初めて見に相馬に向かいます。そして2022年、23年、25年と続けて。5月開催となった24年は介護の関係で行けなかったそうですが、今年も裏方として手伝いに行かれるそう。
写真家でもある星野博美さんが面白いのは「選択」の仕方にあります。
神事でもある「相馬野馬追」は、奥州中村藩の五つの郷(相馬市・南相馬市鹿島区・南相馬市原区・南相馬市小高区・双葉郡浪江町、双葉町、大熊町)から騎馬が集まる。各郷で「お行列」と呼ばれる甲冑、陣羽織の武者が騎馬で大通りを練り歩き、なかでも「出陣」の行列は祭事の目玉。その出陣は郷ごとに行われる。ということは、目にすることができるのは複数あるうちの一つ(2021年はコロナ堝の影響で三つの郷が参加中止した)。フェスの会場で、同時刻に人気バンドが異なるゾーンでライブしているようなもの。
星野さんはどのようにして、そのひとつを決めたのか。選択が違っていたら、この本は生まれていなかっただろう。
「相馬野馬追」の歴史を調べていく過程に立ち会うのも「へえー」が詰まっていて面白いのですが、意外というか、星野さんの行動にはけっこう行き当たりばったりなところもあって、どうなっていくのか展開が読めないのも面白い。
行事を取り仕切るエライひとたちにアポをとり取材を組み立てる、という仕方はしない。その日、現場で“たまたま”見かけ、気になっていた騎馬武者の女子高生に声をかけ、話しているうちに「一緒に来る?」と彼女の参加するグループが陣屋に戻るのについていく。さらにさらに、数珠繋ぎ的にそこで会ったひとからひとを紹介されてゆく。展開が何ともなりゆきで自然で、そもそもの起点が周縁からのピンポイント。そうして星野さんが出会い、主人公となる一団は、とても独特だ。
本業はムービーカメラマンで、「殿」のために東京から駆けつける高橋さん。「軍者」をつとめる山本さんは、震災前は福島第一原発から10㌔圏内の富岡町夜の森に暮らしていたが、事故で離れざるをえなくなり「馬と暮らせる」からと那須を選んだという。
ひとりひとりに、野馬追がもつ意味やその人生の起伏について聞いていく。レコーダーを使いインタビューしている最中、「なんの宿題をしているの?」と子供たちが寄って来る記述があるが、空気がふっとゆるむこのシーン、けっこう好きだ。(p.156)
快活な野武士集団のようなつながりが面白く、日を、時間を重ねるうち、あの日のことが語られだす。震災のあの日そんなことがあったのかと、息をのむ。「野馬追」にかかわる人たち個々の、市井のドラマをその場に居合わせたかかのように読めるのがこのノンフィクションの醍醐味だ。何百頭の馬たちが野馬追の日にどこからやって来て、帰るのかというのもわかるし。
「取材」というと、事前に取材許可を取得する、入念に調べ上げるのももちろん大事ですが、誰に話を聞くのかという選択はもっとも大事なこと。星野さんは、「誰」については現場で決めている。つよいひとだ。「たまたま」会って面白い話を聞き出すというのは、そうそう成立しない。どうすれば、こうした幸運を引き寄せられるのか訊いてみたいと思い、今回ゲストに来ていただくことに。
今回のテキストにはもう一冊、『島へ免許を取りに行く』(集英社)もあげておきます。
2012年の著書ですが、落ち込むことが重なり心機一転、免許を取ろう、どうせなら好きな長崎の五島列島にある合宿式の自動車学校がいい。そこでも長崎からフェリーにするのか、博多からにするかの選択に星野さんらしさが見える。船底の大部屋で一緒になった女性に話しかけるところから始まる40代女子のドタバタ記。馬に乗れる自動車学校というのはたぶん全国でここだけだろう。
選択のポイントが「中年にやさしい」と「馬に乗れる」の二点というのがなんとも星野さんというか。馬つながりで『野馬追で会いましょう』へとつながっていくわけですが。個人的には、できないものを克服していく体験ノンフィクションということでは、先年他界された髙橋秀実さんの『はい、泳げません』と双璧をなす爆笑ノンフィクションです。
聞き手のアサヤマは昨年、相馬にかかわる仕事をしている家人の付き添いで初めて見ることができたのですが、和やかな祭事に見えても、ときに「お行列を横切ること、まかりならぬ!!」と騎馬の武者がピリピリしていたのは「ああ、あれはそういうことなのか」と傍で説明をきくよう。『野馬追で会いましょう』は臨場感がある。野馬追を見に行こうとされているひとには必携ですし、見たひとはまた行きたくなる本でもあります。そして馬をめぐる稀有な人物ノンフィクションです。

画像
この本の取材の起点となっていった野馬追に参加していた愛菜さん『野馬追で会いましょう』のカバー裏の写真(撮影は星野さん)
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概 要
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日 時:2026年6月13日(日)18:30開場/19:00開演 質問タイムあります
会 場:Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2-4-7/東京メトロ銀座線「田原町」徒歩2分)
参加費:
〇会場参加券(通常)/1500円
〇リピーター参加券(インタビュー田原町に会場参加したことがあるひと)/1200円
〇応援してやるぞ!!(カンパ込み)参加券/2000円
※オンライン配信はございません。
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登壇者プロフィール
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ゲスト
星野博美(ほしの・ひろみ)さん
1966年、東京都生まれ。ノンフィクション作家、写真家。『転がる香港に苔は生えない』で大宅壮一ノンフィクション賞、『コンニャク屋漂流記』で読売文学賞「随筆・紀行賞」、いける本大賞、『世界は五反田から始まった』で大佛次郎賞を受賞。ほかに『みんな彗星を見ていた』『旅ごころはリュートに乗って』『島へ免許を取りに行く』『戸越銀座でつかまえて』『馬の惑星』など。
聞き手
朝山実(あさやま・じつ)
1956年兵庫県生まれ。フリーランスのライター&編集者。著書に『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店)、『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP)。編集本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著・中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著・晶文社)など。
