【終了しました】【インタビュー田原町 番外編】絵本作家の舘野鴻さんにきく
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映画『うんこと死体の復権』(関野吉晴監督)にも出演された舘野鴻(たての・ひろし)さん。年数をかけ虫の生態を観察し、緻密な絵とものがたりを創作してきた絵本作家と、『うんこと死体の復権』の監督助手を務めた前田亜紀さん。お二人をゲストに、映画の舞台裏、それぞれの仕事についておききします。
昨春から始めた、ノンフィクションの書き手に話をきく「インタビュー田原町」も14回を数えることになりました(番外編は2回目)。
今回のゲストは、お二人です。
先ごろ『どんぐり』(小峰書店)で日本絵本賞を受賞された、絵本作家の舘野鴻さん。
そして、『NO選挙,NO LIFE』の監督で、『うんこと死体の復権』では監督助手として現場に就かれた前田亜紀さん。
前田さんは、探検家にして文化人類学者の関野吉晴さんが武蔵野美術大学のゼミで行った「食材を一から作る」授業を、一年間取材。
米や野菜だけでなく食材のすべて、鶏を飼育し肉にする過程で起きた論争を見つめたドキュメンタリー映画『カレーライスを一から作る』を初監督(同タイトル本も、ポプラ社刊でロングセラー)。
昨年は『NO選挙,NO LIFE』を監督、選挙に没頭する男・畠山理仁を追った。
並行して『カレーライスを……』の縁から、関野の初監督ドキュメンタリー映画『うんこと死体の復権』にも3年以上携わり、撮影、プロデューサー(大島新と共同)も務めている。
舘野さんは、生態系を循環の視点から見直そうとするドキュメンタリー映画『うんこと死体の復権』に登場する、三人のキーパーソンのひとりです。
動物の死体やうんこを食べて生きる虫たちを息長く何年にもわたって観察し、生態を理解したうえで細密な絵に描いていく絵本作家だ。映画では、仕掛けたマウスの死体に集まる様々な虫たちを観察する日々を追っている。
先ごろ、落下する「どんぐり」から始めり、鳥にくわえられ、鹿に新芽を食われ、、と森の時間を描いた文字のない絵本『どんぐり』(小峰書店)で日本絵本賞を受賞。
最新作は『うんこ虫を追え』(福音館書店)。
番外編の当日は、まず「撮る側と被写体」、映画を通して、それぞれの眼に見えていた互いの仕事への疑問、聞きたかったけど聞きそびれていたことなどを話してもらおうと考えています。舞台裏のはなし、ですね。
後半は、朝山(わたし)が聞き手となって、主に舘野さんをインタビューします。
舘野さんに会って話をきいてみたいと思ったのは、『うんこと死体の復権』がきっかけです。
絵本にするまでに、こんなに手間のかかる作業を経ているんだ。面白いひとがいるものだ。
とくに興味を惹かれたのは、大学時代にタテカンを書いていたというのと、演劇に関わり、身体を使う労働に就いたりしながら絵本作家になったという。
それも虫が専門。なかでも疎まれがちな「しでむし」「うんこ虫」を選んできたこと。
じつは、わたし、すっげぇー虫ぎらいなんです。農家の次男坊だったんですけど。
二十歳の頃に思い立ち(なにを血迷っていたのか……)実家の手伝いはろくにしてこなかったのに遠方の村の援農に出かけ、「ニイチャン、あんなちっこいクモ見て飛び上がっとったんじゃあなあ」と一笑されたのが忘れられない。
だもので、マウスの死体にたかるウジムシを採集したりするのを見て、まいったなあ。どっと引く気持ちとともに、プロフィールにあるタテカンを書いていた人がどのようにしてこの境地に至ったのか知りたいと思った。
というのも、大学に入って間もない頃、タテカンを描いているひとの背中を長いこと見ていたからなんでしょう。「やってみる?」と声をかけられ、刷毛を手渡されたものの一文字試して「ダメ。センスない」と即アウト。そんなことを思い出したりしたのです。
それはさておき、舘野さんの描く絵本の世界は驚くほど緻密で、虫ぎらいのわたしすら、惹きつけるものがある。
『うんこと死体の復権』の映画は、試写室での目にしている間ずっと頭の中がぐらんぐらんしました。虫は出てくるし。いきなり大人たちが野糞する場面から始まるし。
前田亜紀さんからのためらいながちの案内でなければ足を向けなかったはず。
しかし、人間慣れというのはおそろしいもので、うんこも、虫も、見続けていると鈍感にはなっていくものなんですね。嫌はいやだけど。
いっぽうで、耐えられなかったのは、ゆるい査問を受けているような圧迫感でした。
虫やうんこは「見ない」ことで我慢もできますが、野糞から生態系の循環を見つめなおそう。これまでの暮らし方を反省し、自然にやさしいライフスタイルの提案じたいにはおおむね「そうだね」と賛同するものの、「で、あなたはどうなの? どうするの」とぐぐっと迫られているような居心地の悪さがしてならない。
たとえば、この半世紀でトイレを使ったのは数回という、エコロジカルな野糞生活実践者のもとを共感者たちが訪ねてくる。
仮にわたしが取材者としてこの場にいたら逃げ出しただろうなあというのが「土」を口に含む場面です。
グルメ番組で変わったキノコを味見でもするかのように、味を語り合う。この場面には激しい違和感を抱きました。
その土は、十数日くらい前までは人のうんこのかたちをなしていた
ものなんですよね。それを理解したうえで、愉しく味覚を語るというのはわたしには絶対ムリ。ムンクの叫びというか、個人的にはキリストの踏み絵のように思えたんですね。
まあ、その場に居合わせても、おそらくわたしには「食べてみない?」と声をかられなかったでしょうけど。苦手なんです、サークルの圧みたいなものが虫以上に。
いっぽうで映画としては、愉快に笑う場面が幾度もありました。
「うんことわたし、どちらをとるの?」
キーパーソンの年配男性が、妻に問われた日のことを振り返る場面です。
すこしの間があき、彼は考えに考えた末「うんこ」を選んだんだよと話す。
爆笑してしまいました。まわりからも笑い声が。
うんこにハマるまでは、妻の目にはたぶん夫として父親として問題はなかった。彼も妻には心残りがうかがえる。
妻に捨てられたわけではなく、妻がうんこに負けた。そんなことって、世の中にあるんですね。
以来、彼は森でのひとりの生活を続けているようですが、カメラがまわっている間、悩まし気な表情を見せたのはその一回、それも一瞬のこと。現状の生活に不自由はないし、いきいきしているようにすら見えていた。話しぶりとかも穏やかで「いいひと」だし。
想像を軽々と飛び越え、全体を通して、なんで?ええっ!に満ちた「ザ・ノンフィクション」的なおもしろさがある。
そうした三人の中で舘野さんは「こっち」側にちかいひとのように思えました。そういう区分けも乱暴ですが。うんこもトイレでしていそうだし。それでいて、うんこ虫や死体に集まる虫たちを観察することに没頭する。人間、その落差が面白いなあと。
『うんこ虫を追え』は、フンを食べて生きるオオセンチコガネ(カラフルで色合いは宝石っぽい)を飼育する経過を描いたもので、観察の仕方は、昆虫記のファーブルそのもの。
失敗しては原因を探り、別の仕方で再トライする。これを繰り返し、ひとつの絵本を描きあげるまでに数年を費やしている。
「飼育となると……あ、うんこの調達か。やだなあ」
絵本の中で、作者がつぶやくのを見て、安堵しました。やなんだ。やだよねえ、と。
観察する作者自身も、絵にしているのもイイ。
怪獣映画の『モスラ』ですら目をふさいだりするわたしなので、ようやく育った幼虫が出てくるあたりから、頁をめくる手がびくびく。それでも、見慣れてくるもので。まだ好きにはなれないですけど。
ベストカットを選ぶとすると、裏表紙のフン玉を押す小さな虫を腹ばいになって見つめている自画像でしょうか。
インタビューでは、『うんこ虫を追え』をはじめ、『しでむし』『どんぐり』、それに『ソロ沼のものがたり』の4冊をテキストに創作の背景などを聞いてみようと考えています。
とくに『ソロ沼』は児童書のジャンルに入るのだろうけど表題作では、片眼の痩せたカエルが「ソロ沼」と呼ばれる桃源郷?をめざす冒険ものがたりにして、幾重にも「生と死」を描いている。情景の挿絵はあるものの、虫も動物もワンカットも描かれていないのが特色です。できたら、この本のはなしもすこししたい。
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概 要
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日 時:2024年8月17日(土)18:30開場/19:00開演
会 場:Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2-4-7/東京メトロ銀座線「田原町」徒歩2分)
参加費:1500円
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登壇者プロフィール
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ゲスト
舘野鴻(たての・ひろし)
1968年横浜市生まれ。故・熊田千佳慕に師事。演劇、現代美術、音楽活動を経て生物調査員となり、国内の野生生物全般にふれる。その傍ら、教科書、図鑑などの生物画や景観図、解剖図などを手がけ、写真家・久保秀一の助言を得て2005年より絵本製作を始める。著書に『しでむし』『つちはんみょう』(小学館児童出版文化賞受賞)『がろあむし』(以上、偕成社)、『ソロ沼のものがたり』(岩波書店)、『どんぐり』(小峰書店)、『うんこ虫を追え たくさんのふしぎ傑作集』(福音館書店)など。
前田亜紀(まえだ・あき)
1976年大分県出身。2001年よりテレビ番組の制作に携わり、フリーランスのディレクターとして活動。12年より大島新と組み「ETV特集」「情熱大陸」「ザ・ノンフィクション」「NONFIX」などでテレビドキュメンタリーを制作。16年『カレーライスを一から作る』を監督。ポプラ社より書籍化。大島新監督『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川一区』『国葬の日』、ダースレイダー&プチ鹿島監督『劇場版 センキョナンデス』『シン・ちむどんどん』ではプロデューサー。23年『NO選挙,NO LIFE』監督を務める。
聞き手
朝山実(あさやま・じつ)
1956年兵庫県生まれ。書店員などを経て1991年からフリーランスのライター&編集者。
人物ルポを中心に「週刊朝日」で30年間「週刊図書館」の著者インタビューに携わってきた。著書に『父の戒名をつけてみました』『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店)、『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP)など。
編集した本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著・中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著・晶文社)など。