2024年04月12日

【インタビュー田原町10】ゲストは、『正義の行方』(講談社)を書かれた木寺一孝さん。

※オンライン配信はありません。

本書のプロローグに木寺さんは、こう書いています。
〈いったい何が真実なのか、そして、誰の正義を信じればいいのだろうかーー。〉


木寺さんは、冤罪の疑いをもたれながらも判決確定後2年という異例の速さで死刑が執行された「飯塚事件」を再検証する、同名のドキュメンタリーを監督(文化庁芸術祭大賞受賞、映画は渋谷ユーロスペースほかで4/27よりロードショー公開)されています。
『正義の行方』は、前半、すでに死刑が執行された30年前の事件を捜査した元警察官たちのインタビューが柱になっています。いわば刑事たちの揺るぎなき「正義」の矜持、言い分です。丁寧な積み重ねで、なるほどなあとなる。
ン?
刺のようなひっかかりを覚えるのは、拘置中の夫との面会をめぐり、容疑をかけられた男の妻と、面会を段取りした元警察官の証言が食い違う。
いくぶん容疑者の家族だからという眼で割り引いて見がちだし、まさかこんなことで警察が嘘をつくはずがないだろうという思いで読むのですが。何より元刑事のしゃべりは堂々としている。


ン、ン?
二つめの刺は、妻の側にはわざわざ嘘をつかねばならない理由がないし、こんな非日常の体験で彼女が記憶違いをすることなどありえないだろう。
一方、元刑事はその場の様子を詳しく述べ「奥さんはこう言った」と言い切る。


本当にそんなことを言ったのだろうか?
首を傾げる思いでいると、妻は、自分はそのようなことは言ってもいなし、発言につながる重要な物証を警察から見せられるなんとことじたい、なかったという。
すでに死刑が執行された男に対する心象を左右する、真っ向から食い違う二つの証言。
その後も元警察官は、刑事の職分について滔々と語り、だから冤罪などあり得ないのだとインタビューにこたえている。


この作品がこれまでの冤罪事件を扱った数多くのノンフィクションと異なるのは、刑事たちとの対面インタビューに量を割いている(映画もそう)。その上で、死刑囚の妻や再審請求に取り組む弁護士たち、事件を一から洗い直そうと異例の調査報道に取り組んだ地方紙の新聞記者たち。三つの視点を交差させながら編まれていることです。


取材者である著者は相反する証言を並べながら、早急に判断を下すことはしない。ただ、はっきりしているのは、どちらかが、真実を隠している。なぜ嘘をつかねばならないのか。グラウンドから客席の読者にボールを投げ入れた格好だ。


重要な物証とされてきたDNA鑑定への信頼が崩壊するような展開。目撃証言に対する警察の誘導が疑われるなど、後半、どこまで捜査の「正義」を信じていいものか。オセロゲームのように一方の「正義」は白から黒へ、疑念の色を濃くしてゆきます。読者は稀有なミステリー小説を読むような感覚をさ迷うことに。


今回、木寺さんにお聞きしたいことのひとつは、どうしてノンフィクション版の『正義の行方』を書き上げるのにこの文体を選択したのだろうか?
最初に本を手にしたときには、映画を丁寧にトレースした副読本?あえて正直にいうと、ちょっと戸惑いました。
が、読みすすめると、すぐにそれは間違いだと気づきました。
どういうことかというと、読者として勝手に〈私〉の視点で綴られるスタイルのノンフィクションを期待していた。が、簡潔に取材して得た証言を積み重ねていくなかで、よくある取材者(書き手)がどのように迷い考えつつ、といった取材過程(舞台裏)を書き記す構成を取らず、ひたすら事実(証言)を紡いでいくことに重点が置かれている。著者が引き立て役(語り部)となることの多い事件ノンフィクションを読み慣れてきた眼には、異色に感じられたとともにストイックな骨太さも。


捜査にあった警察官たちのインタビュー(退職したとはいえ、当時の捜査の様子をこんなに刑事たちが詳しく語るドキュメンタリー映画を見たのは見たことがない)をはじめ、当初事件報道をリードしながらも後に再検証の調査報道に取り組んだ西日本新聞社の現場の記者たち、弁護士たち、死刑囚の妻らを取材していく。この構成は映画も本も基本線は同じながら、本は微妙に映画とは異なっています。
たとえば、映画のファーストシーン。事件のドキュメンタリーにしては、静かに活け花をする場面が映る。事件の重要証言につながる人物のインタビューシーンですが、本ではこの場面はありません。ストレートな事件への入り方をしています。
映画と本は異なるメディアといえばそれまでなのですが、「インタビュー田原町」ではこの点はぜひ訊ねてみたい。
ぜひ、ということでは、取材の成果を積み重ねていくストイックな文章の特色となっているのが、書き手の〈私〉があらわれないこと。正確にいうと、終盤にたった一度だけ、〈私〉は登場します。とても印象に残る、元刑事との電話のやりとりを綴った場面です。
なぜ、この場面だけに〈私〉を記したのか。
どのように取材し書くかにこだわって聞いてきた「インタビュー田原町」としては、どうしても知りたいところです。
通常のインタビューだと事前に質問事項を伝えることはほぼないのですが、客席を設けて行うインタビューだけに聞き手の視点が分からないとわざわざ参加したものかどうか迷うだろうなあというのもあり、あげてみました。
今回、木寺さんをインタビューするにあたり、プロフィールからなるほどと思ったことがあります。
NHKテレビで放映された樹木希林さんのドキュメンタリー(のちに映画となった)を撮られたひとなんですね。映画の撮影現場に向かう、樹木さんが運転するクルマの助手席に座って彼女の話に、穏やかに耳を傾けていた。あなたそんなんじゃ、とチャキチャキの先生から世話をやかれる生徒のような関係が浮かび、NHKのディレクターらしからぬひとだなあというのが印象に残っています。
もうひとつ。連合赤軍の兵士だった植垣さんと奥深い山中を登坂し、かつて彼自身が築いた山小屋跡を探しだそうとする。加害者であり、被害者の深い関係者でもあった元兵士の慰霊の行程を映したドキュメンタリーは他の連赤ものとは色合いを異にしていました。
この2本のドキュメンタリーを撮られたのが木寺さんと知り、納得するところがありました。それはこういうことだと、まだうまくいまは言語化できないのですが。
インタビューではそのあたりも探っていけたらと考えています。
参加者からの質問があれば時間をもつ予定です。




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 概 要

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日 時:2024年5月11日(土)18:30開場/19:00開演

会 場:Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京メトロ銀座線「田原町」徒歩2分)

会場参加のみ(25席限定)
今回配信はありません。
チケットは以下からご選択ください。
○会場参加券(通常) /1500円
○リピーター参加券(インタビュー田原町に会場参加したことがあるひと)/ 1200円
○応援してやるぞ!(カンパ込み)参加券 /2000円

ご参加をご希望の方は【インタビュー田原町10】ゲストは、『正義の行方』(講談社)を書かれた木寺一孝さん。 | Peatixよりお願いします。


※オンライン配信はありません。

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 登壇者プロフィール

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話すひと=木寺一孝(きでら・かずたか)さん

1965年佐賀県生まれ。NHK入局後、ディレクターとして死刑、犯罪を題材にドキュメンタリーを制作。『父ちゃん母ちゃん、生きるんや 大阪・西成 こどもの里』(03年 ギャラクシー賞特別賞ほか)、ハイビジョン特集『死刑 被害者遺族・葛藤の日々』(11年 ギャラクシー賞奨励賞)、ETV特集『連合赤軍 終わりなき旅』(19年 ギャラクシー賞奨励賞)、BS1スペシャル『正義の行方 飯塚事件 30年の迷宮』(文化庁芸術祭大賞ほか)。
23年、NHK退局。初監督映画『“樹木希林”を生きる』(19年)。

聞き手=朝山実(あさやま・じつ)

1956年兵庫県生まれ。91年から書評、人物ルポを中心に「AERA」「週刊朝日」などでライター活動を行う。
著者に『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年 』(角川書店)ほか。編集した本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著、中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著、晶文社)など。


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 ♯インタビュー田原町これまでのゲスト

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01『芝浦屠場千夜一夜』山脇史子さん
02『ジュリーがいた』島﨑今日子さん
03『ルポ 日本の土葬』鈴木貫太郎さん
04『仁義なきヤクザ映画史』伊藤彰彦さん
05『黙殺』畠山理仁さん
06『葬送のお仕事』『師弟百景』井上理津子さん
07『触法精神障害者』里中高志さん
08『大川総裁の福祉論!』大川豊さん
09『死なれちゃったあとで』前田隆弘さん(4/27予定)


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 配信について

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オンライン配信は、ZOOMを利用しておこないます。
Zoomアプリをインストールしインターネットに接続したPC、スマホ、タブレットなどをご用意ください。
当日、開演前にPeatixのDMおよび、お申し込みの際にご入力いただいたメールアドレスへミーティングルームへの招待URL、パスワードなどをお送りしますので、そちらからご参加ください。

なお、機材トラブル等で開始時間が遅れることがございます。また配信が不可能な状態になった場合は、終了後に録画を共有する形で対応させていただきます。あらかじめご了承のうえお申し込みください。

2024.04.12. | Posted in news