2023年11月15日

【終了しました】【インタビュー田原町06】『葬送の仕事師たち』(新潮文庫)、『さいごの色街 飛田』(筑摩書房、新潮文庫)など徹底した取材で知られるノンフィクションライターの井上理津子さんをお迎えして

『芝浦屠場千夜一夜』の山脇史子さん(01)、『ジュリーがいた』の島﨑今日子さん(02)『ルポ 日本の土葬』の鈴木貫太郎さん(03)、『仁義なきヤクザ映画史』の伊藤彰彦さん(04)、『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』の畠山理仁さんに続き、最新刊『葬送のお仕事』(シリーズお仕事探検隊・解放出版社)、『師弟百景 “技”をつないでいく職人という生き方』(辰巳出版)を主要テキストにして「取材するということ」「書くということ」についてインタビューを行います。


今回、井上理津子さんにお話を聞きたいと思ったのは、04回ゲストの伊藤彰彦さんが「師弟」を取材して本にまとめるということを考えていたけれども、断念されたという。理由は、井上さんが書かれた『師弟百景』を手にし、出る幕はない。そう思ったと話されるのを聞いて、遅ればせながら読んでみました。
師弟バディものというのは、わりと考えつく題材ではあります。『師弟百景』は庭師、釜師(茶道具)、仏師、染織家、左官など16組の「伝統」の世界の職人の現場を覗き、話を聞きとっていったもの。まず口絵のカラー写真がいい。きめ顔で収まるのではなく、(ほら、ここはなあ……)と師匠が、のぞき込む弟子に手元を見せている。筆を口にくわえる師匠の気配を背中に感じ取りながら、作業にうちこむ弟子。チラッ、と弟子の手つきを見て(うん。できとる)と得心する師匠。無音の写真の一コマから会話が聴こえてきそうなショットを目にし、こうしたの現場に立ち会っているということは、著者の仕事もまた入念なものにちがいない。
日に数組、読んでいきました。もともと遅読なこともありますが、さっさと読めない。それぞれ、仕事を一度咀嚼し再理解していったうえで、現場で受けた説明を地の文章に落とし込み、ことばとして人に伝えようとする。仕事は「見て盗め」とされてきた職人の世界ですが、いまはそんなことを言っていたら後継者は育たない。
井上さんは「あとがき」で、
〈今は昔、職人というのは気難しくて寡黙だ、というイメージがあったと思います。ところが、どうでしょう。ここにご登場いただいた親方たちはちっとも気難しくなく、どちらかというと饒舌(じょうぜつ)でした。〉と綴っている。
様変わりしたものだなぁと感心しつつ、それでも弟子たちにとって(親方にしてもやむなく全部ではないにしても)何年間は「給料なし」という環境は相変わらず。それでも、という入門動機はさまざま。一章、一章が濃い世界です。
たとえば「茅葺き職人」の章。
「あ、茅って植物の名前と思われがちですが、ススキや葦(よし)、小麦藁(わら)など屋根を葺く植物の総称なんですよ」
と笑顔の師匠から教わる著者は〈意外でした。〉と記す。読者のわたしもこのとき初めて知りました。
学んだといえば、「茅は一本一本がストローのような形状で、筒の中に空気が入っているから、冬は暖かく、夏は涼しく、しかもカーボンニュートラル」という説明、へえーなるほど。これも知りませんでした。さっそく誰かに教えてみたくなる。落語に出てくるお調子者だ。
もう一冊。『葬送のお仕事』は、〈シリーズお仕事探検隊〉の最新刊で、『屠畜のお仕事』『ごみ清掃のお仕事』が既刊書としてある。中学生くらいからに向けた本づくりがなされていているものの、大人が読んでもおかしくない。葬儀にかかわる仕事の説明とともに、かつては差別や偏見をもって見られていた「職業の歴史」についても記されているのは類似する本とのちがいだろう。
読み物としても、コロナ禍にあって医療者に劣らぬくらい葬儀に携わる人たちがなしていた役割、奮闘を伝える現場の声。お葬式の風景として定着していた、帰宅した玄関口でまく「清め塩」。いまはお客さんから要望されないと出さない葬儀社が増えてきているというが、変化の背景を記しているのもこの著者、この出版社の本ならではだ。
さらにいうと、この本の面白さはインタビューにある。葬祭ディレクター、納棺師、葬儀スタッフの派遣会社を起業した人、火葬場に勤務する女性スタッフなど、現場に立つ若いひとたちに聞いている。企画としてはこの種の本としては定番だが、ひとりひとりの「個」が見えてくる。
なかでも26歳で葬儀社を独立開業した吉井さんの話には意表をつかれました。
定時制高校を卒業、自身で「夜職(よるしょく)」と言う、新宿・歌舞伎町のキャバクラでボーイをしていたというのを聞いて、チャラ男くん、と一瞬斜めに見たジブンを後に恥じました。根っから接客が向いているのだろう、家電量販店でトップセールスマンとなり、葬儀会社で5年働き、「明朗会計」の葬儀社を起業する。
その際、銀行などから1800万円を借り入れたというが、融資申請のために作成した「事業計画書」とリサーチ、顧客に葬儀項目を「カスタマイズ」としてもらう斬新な営業展開など、もう「若造」ではない。志もいい。業界の革命児になるんじゃ。ころりと印象がひっくり返った。しばらく吉井くんのこれからを観ていたい気持ちにまでさせる。


というわけで当日は、二冊の新刊を中心にこれまで書かれてきた著書にもふれながら「書くということ」「取材するということ」について初心にもどり教わろうと思います。

 

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 概 要

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日 時:2023年12月16日(土)18:30開場/19:00開演
    当日、開演直前にzoomのURLをメールまたはPeatix DMにてお送りいたします。
    1週間のアーカイブ配信あり。開催日の翌日以降、準備でき次第メールにてアーカイブ視聴URLをお送りします。

会 場:Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京メトロ銀座線「田原町」徒歩2分)

参加費:1,500円(会場、オンラインとも)

ご参加をご希望の方は【インタビュー田原町06】『葬送の仕事師たち』(新潮文庫)、『さいごの色街 飛田』(筑摩書房、新潮文庫)など徹底した取材で知られるノンフィクションライターの井上理津子さんをお迎えして | Peatixより。

※会場で開催し、オンラインでの同時配信を予定しています。ただし、状況により登壇者の移動に困難が生じた場合などは、延期、オンラインのみでの開催となる可能性もございます。あらかじめご了承ください。

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 登壇者プロフィール

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話し手

井上理津子(いのうえ・りつこ)

1955年奈良県生まれ。ノンフィクションライター。大阪を拠点に人物ルポ、旅、酒場などをテーマに取材・執筆をつづけ、2010年に東京に移住。『さいごの色街 飛田』(筑摩書房のち新潮文庫)、『絶滅危惧個人商店』(筑摩書房)ほか多数。とくに葬送関係は2012年から取材を始め『葬送の仕事師たち』(新潮文庫)、『いまどきの納骨堂 変わりゆく供養とお墓のカタチ』(小学館)、『親を送る』(新潮文庫)がある。

聞き手

朝山実(あさやま・じつ)

1956年兵庫県生まれ。書店員などを経て1991年からフリーランスのライター&編集者。
人物ルポを中心に今年5月に休刊した「週刊朝日」で30年間「週刊図書館」の著者インタビューに携わってきた。
著書に『父の戒名をつけてみました』『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』(中央公論新社)、『アフター・ザ・レッド 連合赤軍兵士たちの40年』(角川書店)、『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP)など。
編集本に『「私のはなし 部落のはなし」の話』(満若勇咲著・中央公論新社)、『きみが死んだあとで』(代島治彦著・晶文社)などがある。
__________________________________ 配信について

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オンライン配信は、ZOOMを利用しておこないます。
Zoomアプリをインストールしインターネットに接続したPC、スマホ、タブレットなどをご用意ください。
当日、開演前にPeatixのDMおよび、お申し込みの際にご入力いただいたメールアドレスへミーティングルームへの招待URL、パスワードなどをお送りしますので、そちらからご参加ください。

なお、機材トラブル等で開始時間が遅れることがございます。また配信が不可能な状態になった場合は、終了後に録画を共有する形で対応させていただきます。あらかじめご了承のうえお申し込みください。

2023.11.15. | Posted in news